「啐啄の機」 No.13(2022年5月1日)

2022.05.01

ゲルニカ

本校1階にある図書館横の壁には、スペイン出身の画家パブロ・ピカソ(1881-1973)の代表作の一つである「ゲルニカ」(1937年作)のレプリカが飾られています。ゲルニカはスペイン北部バスク地方の小さな町の名前です。1937年4月、この町はドイツ空軍による無差別爆撃の標的となり、2000人の市民が犠牲になりました。当時、ピカソは活動の拠点をパリに移していましたが、祖国で起こった惨劇の報に接し、この作品を描いたと言われています。

本校の「ゲルニカ」は、2003年度(平成15年度)の卒業記念品として寄贈されました。そして、この絵の横には作品の解説とともに、当時の学校長の次の言葉が添えられています。

「争いごとからは憎しみしか生まれません。
そして、憎しみの連鎖が始まるだけです。」
皆さんはこの作品を通して戦争の悲惨さを、平和の大切さを、
そして命の尊さを学んでください。

図書館横にある「ゲルニカ」

作品に添えられた言葉

2003年といえばイラク戦争が勃発した年です。こうした社会的背景もあり、当時の卒業生は平和の祈りを込めて、後輩たちのために「ゲルニカ」を残してくれました。

けれども、悲しいことにその後も地球上から戦争はなくならず、今もまた人類は歴史を繰り返しています。

先日の朝日新聞「天声人語」では、ウクライナでの戦争に重ねる形で、この「ゲルニカ」を取り上げていました。以下にその一部を引用します。

死んだ子を抱く母親。倒れた兵士。おののく馬──。叫び声まで聞こえるような作品はパリ万博のスペイン館で公開された。非人道的な行為を世界に告発する手立てとしては、どこか「速報」を思わせる。
(2022年4月15日 朝日新聞「天声人語」)

そして「天声人語」は、「いまウクライナからも、ロシア軍の蛮行が次々と伝わる」と続けています。

歴史を紐解くと、人類は有史以来、数限りない戦争を繰り返してきました。たしかに人類にはそうした攻撃的な側面があるのかもしれません。けれども、我々の本質は決して暴力的なものではないはずです。私たちはだれでも、平和を願う心と、それを実現するための知恵を持っているはずです。

ピカソは自らが描いた「ゲルニカ」を通して、世界にその惨劇を伝えました。そして、多くの人がこの絵を通して戦争のもたらす残酷さに衝撃を受けました。今では「ゲルニカ」は、反戦の象徴と言われています。

ピカソの時代に比べると、現代ははるかに多くの情報を私たちにもたらします。そして、そうした情報の中には、悲しみで目をそむけたくなるものや、心の痛みを伴うものも存在しています。ですから、私たちはそれらの情報をきちんと受け止めるだけの勇気と覚悟を持たなければなりません。そうでなければ、その先にある平和を実現することなど、とてもできないでしょう。

私たちは母校に「ゲルニカ」を残していった卒業生の思いをしっかりと受け止め、勇気と覚悟と知恵をもって、これからも世の中の現実に目を向けていきたいと思います。