自分にとって最も好きなこと
将棋界で最も伝統と格式のあるタイトルは「名人」で、現在は藤井聡太八冠が保持しています。先月末には第82期将棋名人戦の第5局が行われ、藤井名人が4勝1敗で防衛したことが大きく報道されました。
今や将棋界で無双の強さを誇る藤井名人ですが、その人柄は、「プロ棋士」がかつて「将棋指し」と呼ばれていた時代の勝負師然としたイメージではなく、まるで真理を追究する研究者のような雰囲気を醸し出しています。これは、同じ将棋界のレジェンドである羽生善治永世七冠にも共通するものです。
藤井名人が将棋と出会ったのは5歳のときで、すぐに夢中になったそうです。もちろん将棋はボードゲームの一種ですから、当時5歳の藤井少年は、純粋にゲームとしての将棋の面白さにのめり込んでいったのでしょう。きっとそれは、競技の違いこそあれ、現在メジャーリーグで活躍している大谷翔平選手が野球少年だったころの気持ちと通じる点があるように思います。
よく、「好きなことを仕事にすると、嫌いになる」と言われますが、藤井名人にしろ大谷選手にしろ、好きなことを仕事にすることで、ますます好きになり夢中になっているように見えます。もしかしたらこの二人にとっては、将棋や野球は仕事ではなく、ただ単に「自分にとって最も好きなこと」であり続けているのかもしれません。
先週末、本校では大学の先生から高校1年生に向けて、「大学での学び」について紹介してもらう機会がありました。ご自身の研究活動を通して、どのようにその研究分野に出会い、現在取り組んでいるのかをお話しいただき、生徒たちはたいへん興味深く聞き入っていました。きっとこの先生にとって、ご自身の研究は仕事ではなく、藤井名人や大谷選手と同様に「自分にとって最も好きなこと」なのだろうと思います。
「好きなことを仕事にすると嫌いになる」というのは、きっとそれが他者から強いられるものに変わるからなのだと思います。自分にとって最も好きなことは、決して他人から押しつけられるものではありません。そして、自分にとって最も好きなことに出会えることはとても幸運なことで、そのときには、好きなものを好きなままで、大切に持ち続けてほしいと思います。
私たち大人の役目は、子どもたちが最も好きなことに出会えるような、そしてそれを大切に抱き続けていけるような環境を作ることなのでしょう。本校が生徒たちにとって「最も好きなことに出会える場所」であってほしいと、私は願っています。
今月行われる体育祭の練習風景です。
みんな頑張ってください!