「啐啄の機」 No.37(2024年7月1日)

2024.07.01

得意を伸ばす
 
以前、オンラインでの教育セミナーに参加したときのことです。画面に次のような図が提示され、講師の先生が我々に向かって、こう問いかけました。「皆さんはこの図を見てどう思いますか?」

セミナーで示された図です。
最初は視力検査かと思いました。

そして、講師の先生はこの図を示しながら、次のように言葉を続けました。

「おそらくこの図を見たほとんどの方は、『縁の欠けた不完全な円』と認識することでしょう。このように、人はどうしても足りない部分に注目してしまうものです。

けれども見方を変えれば、この図は『ほぼ円に近いもの』『もう少しで完全な円になるもの』とも言えます。ですから、私たち大人が子どもたちに接するときには、できていない部分ばかりを指摘するのではなく、できている部分に目を向けるようにしてください」

たしかに、私自身も最初にこの図を見たときには欠けた部分が気になりました。けれども、よく見るとそれはほんの一部分にすぎません。欠けている部分を指で隠してしまえば、ほぼ真円といって良いでしょう。私はこのとき、自分の視点が大きく動いたように感じたのでした。

折しも今月3日には新紙幣が発行されますが、新一万円札の肖像である渋沢栄一は次のような言葉を残しています。

長所はこれを発揮するに努力すれば、短所は自然に消滅する(『青淵百話』より)

どんな人でも、長所があれば短所もあります。そして、たしかに人は長所よりも短所の方が気になります。けれども、すべての人が短所を改めることばかりに気を取られていたら、結局は世の中は平均的な人間ばかりになってしまいます。そんな世の中ではつまらないし、なによりもイノベーションなど起こる余地がありません。

それよりも、みんなが長所を伸ばしていけば、人はそれぞれ得意な分野で活躍することができます。そうすればちょっとした短所など目立たなくなりますし、なによりも自分が苦手なことなら他のだれかに助けてもらえば良いのです。そうやって私たちは世の中を支え合い、お互いに助け合って生きているのではないでしょうか。

学校はもうすぐ夏休みを迎えます。生徒の皆さんは、自分の好きなこと得意なことに、たっぷりと時間を使うことができます。せっかくの夏休みですから、それぞれが自分の長所を思い切り伸ばす活動をしてください。新学期には、皆さんの成長した姿を楽しみにしています。