「啐啄の機」 No.39(2024年10月1日)

2024.10.01

今月の啐啄の機は、6月に掲載した「自分にとって最も好きなこと」の続編です。 

自分にとって最も大切なこと

先週末(9月28日)の朝日新聞「フロントランナー」で、昆虫学者の前野ウルド浩太郎先生が特集されていました。前野先生には今年の7月に本校で、「『好き』で飯食う、バッタの博士」と題した講演を行っていただいており、その様子は本校のHPで紹介しました。また、「フロントランナー」にはそのときに生徒たちと一緒に撮影した写真が掲載されています。

7月の講演は大盛況で、終了後には前野先生に記念のサインを希望する生徒が大勢いたほどです。ただ、あいにくその日は時間の関係で生徒たちへの対応がかなわず、後日、前野先生からはオリジナルの記念スタンプを提供していただきました。現在は校内にスタンプコーナーを設置し、多くの生徒が利用しています。この場を借りて前野先生のご厚意に心より感謝申し上げます。

私自身、それまで前野先生のことは著作を通して存じ上げていたのみで、お会いするのはこの時が初めてでした。実際にお会いしてみると、前野先生は世界的なバッタ研究の第一人者でありながらたいへん気さくな方で、ますます大ファンになりました。そしてなによりも前野先生のお話しを聞いていると、大好きなバッタの研究に生き生きと取り組んでいることが伝わって来て、こちらも応援せずにはいられない気持ちになります。

前野先生のお話しを聞いていると、前野先生にとってのバッタは、単に「好き」という表現では足りず、好きというよりも、むしろ「大切なもの」といったほうが適切なのではないかと感じます。

人の感情は複雑なもので、自分では「好きだ」と思っていることが、自分にとって「本当に大切なこと」だとは限りません。もしかしたら、好きだと思っていたことが、実際には「それを失っても何とも思わない」ということがあるのかもしれません。だから、自分にとって最も好きなこと、つまり最も大切なことに出会えるのは、とても幸運なことだと言えるでしょう。

そして、好きとか嫌いとかいった感情を超えた「最も大切なこと」に出会えた時に、人は損得を超えて一生懸命になれるのでしょうし、そういう人に対しては周囲の人も応援をしたくなります。前野先生が若い頃、バッタの研究をするために単身でモーリタニア(アフリカ北西部の国)に渡ったのも、まさにそうした気持ちからであり、だからこそ周囲の人は前野先生を応援し、困ったときには手を差し伸べたのだと私は思います。

生徒の皆さんは、「自分にとって最も大切なことは何だろう?」ということを、一度じっくりと考えてみてください。そして皆さんが「自分にとって最も大切なこと」に出会えた時には、私たちは皆さんを全力で応援したいと思っています。

校内に設置した前野先生のスタンプコーナーです。
私とのツーショット写真も、ちゃっかり掲示しています。