日常を超える ~ 巳年の初めに
皆さま、新年明けましておめでとうございます。また、日頃より本校のHPをご覧いただき有難うございます。本年も東京電機大学中学校・高等学校ならびに校長ブログ「啐啄の機」をどうぞよろしくお願いいたします。
さて年が改まり、令和7年の干支は巳年です。太古より日本において蛇は信仰と畏怖の対象でした。古くは縄文時代の遺跡から蛇をかたどった土偶が出土していますし、「古事記」における八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の伝説は有名です。
またその一方で、「蛇蝎(だかつ)のごとく」という慣用句があるように、蛇はひどく忌み嫌われるものの象徴でもあります。最近こそ爬虫類をペットにする人が増えてきたとは聞きますが、それでも多くの人にとって蛇は気味の悪い生き物というイメージが強いのではないでしょうか。(実際に私も蛇は少々苦手です)
そんな蛇の特徴について、ノーベル文学賞の候補にもなった作家の阿部公房(1924-1993)は「日常性の欠如」という言葉で説明しています。すなわち、蛇はそののっぺりした外見から擬人化がひどく困難で、したがって我々には蛇の日常を想像することがほとんど不可能に近く、まるで幽霊と同様の不気味な印象を与える存在だというのです。
そして、阿部公房はそのことを、「人間というやつは、それほど強く日常性の壁にしがみついている動物だとも言えるわけである」と締めくくっています。(平成6年『砂漠の思想』講談社より)
ようするに人間というのは自分の常識の範囲外に位置するものに出会うと、それらに対して恐怖や嫌悪感などを抱き、拒絶反応を起こすものだということなのでしょう。このことは、我々がいかに固定観念に縛られているものであるのか、また差別や偏見というものを無意識のうちに抱いてしまうものなのかといった、一つの問題提起でもあるような気がします。
現代は多様性の時代といわれます。しかし多様性を認めるためには、日常性の壁にしがみついている自分自身を自覚し、それを乗り越えるところから始めなくてはいけないのではないでしょうか。巳年の今年は、私自身もそんな自分から脱皮できるよう、日々努力してまいりたいと思っています。
年明けに八ヶ岳で見た景色です。
そこにはまさに日常を超えた世界が広がっていました。