平和への道
年明けの1月15日、2024年下半期直木賞の選考委員会が開催され、伊与原新氏の『藍を継ぐ海』(新潮社)が受賞作に選ばれました。伊与原氏については昨年12月の校長ブログで触れたばかりだったので(
啐啄の機 No.41「学校にはなんでもある」)、受賞の報に接したときには、私もたいへん嬉しく思いました。
『藍を継ぐ海』は五つの短編が収められた作品集です。表題作をはじめとするどの作品にも科学的な題材が登場し、そこに豊かな人間性を調和させた素敵な物語ばかりです。その中でも特に私は「祈りの破片」という作品が強く印象に残りました。
「祈りの破片」は、長崎の原爆投下をモチーフにした短編です。この作品では、空き家問題という現代特有の要素を加味しつつ、歴史と向き合う人間の強い意思が描かれています。そしてこの作品を読むと、あの時代をたしかに生きた人間の生(なま)の姿が浮かび上がってくるような気がします。
今年は広島・長崎の原爆投下から80年の節目の年です。昨年は、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)がノーベル平和賞を受賞しました。たとえどんなに時が経ったとしても埋もれさせてはいけない歴史があるということを、「祈りの破片」という作品は私たちに教えてくれます。
世界では、紛争や戦争が絶え間なく起こっています。過去には日本にも戦争の時代がありました。たとえ今がどんなに平和であったとしても、それが永遠に続くという保証はどこにもありません。そして、目の前の平和を維持するのは、常に今を生きている人たちの努めです。それは、過去に目を向け歴史に向き合うことから始まります。
本校では、来週から高校2年生の修学旅行で九州を訪れます。旅程には長崎の平和公園や原爆資料館も含まれており、生徒たちは被爆された方から体験談を聴くことになっています。私も生徒たちに同行するので、長崎ではこの「祈りの破片」に登場したいくつかの場所を訪れてくるつもりです。今ある平和の時代を失わないために、私も生徒たちとともに学んで来ようと思っています。
今年の修学旅行(高校)のしおりです。
生徒がデザインしてくれました。